設計コンセプト

この家は、鉄筋コンクリート造壁式構造のボックス形状で、西側壁面を結界とする南北軸により仏教の二元的構造論、即ち西側壁面より向こうの世界を悟りの世界(彼岸、涅槃の世界輪廻しない世界)こちら側(建物側)を迷いの世界(此岸、煩悩の世界、輪廻する世界)に二分し、さらに迷いの世界に生きる人間の器である家を陰陽五行説の木・火・土・金・水を配する事でこの家が、時間的な広がり・空間的な広がりのある大宇宙を創意とするとともに、この家が守護される効果も追及しています。

図面 設計コンセプト


悟りと迷いの世界

1階の仏壇、神棚(人は西を向いて拝む)のある小座敷上部にある2階中庭は、仏教の二元的構造論“悟りの世界と迷いの世界”を表した空間です。結界である西側壁面に開いた丸窓は“悟りの窓”を意味し、中庭は迷いから悟りへと導く為の“悟りへの庭”という神聖な領域となっています。


陰陽五行

東北角に木・青(青龍、東、春)、南東角に火・赤(朱雀、南、夏)、西南角に金・白(白虎、西、秋)北西角に水・黒(玄武、北、冬)、中央に土・黄(黄龍、中央、土用)を配し大宇宙を表し、同時に鬼門の方角の北面を鳥居を意味する門型に不浄避けである御簾(ステンレス)を設け、四神相応・四神砂による守護を強めることを追求しています。


外 壁

人間の精神的領域までを追求して形象化するために、コンクリー打放しを選びました。ここでは大地にどっしりと構える量塊の“魂”というよりは、都会の繁雑な中にあっても芯のしっかりした“本質"”ということを表現しています。コンクリートの肌は、絹や麻・綿といった衣をまとった質感ではなく人間の皮膚のような質感であり、本質を表す素材だと思います。


座敷飾りについて

座敷飾りは、日本独特の美意識や感性、精神性の極めて象徴的な空間です。この家の小座敷は、独立した空間ではなくリビング・ダイニング・キッチンの一空間の中に間仕切りの無い形であり、仏間として神様を祭るといった神聖な空間領域である事を併せ持っていますので、無目や踏込式台、並びに仕上げを変えることで領域を明確にしています。

仏壇の納められた部分は、地から天へ昇っていくことを連想させる落着いた加飾りの東京松屋の高級襖紙を使用し、平面閉じ引違い戸によってすっきりさせています。又、神棚の前には、不浄避けである御簾を設けてあります。

床(とこ)は、精神・心を表す場で床板は、精神・心を置く所です。清らかな心の透明性を表現することと同時に、日本人の人を思いやる心『察する』であるとか、古くから日本にある『透かし』という観点から、水盤や鏡、あるいは法衣や装束の重ね色目の透かしを全体のイメージとし、CD盤の上に菱形で真鍮のエキスパンドメタルを薄緑(うすべり)に見立てて、そこに小口から外光が差すガラスを載せました。

CD盤については、茶室於いて腰張りに古暦や反古紙(故人の消息文・訓話・茶書の古い写本等)が使われます。古暦や反古紙は、時間と情報を壁に貼ることによって目に見える形に集約され、意匠化・記号化し、時間を超えた宇宙の広がりを表現しているのです。虹色の輝く美しさと同時に、現代社会に於いて情報の集約されたた物として、並びに、円による“無限”を表すことが出来る。情報の入ったCD盤を目に見える形としたことで、時間的な広がりと空間的な広がりのある宇宙をこの床板で表現し、又コンクリート小叩きの壁のザラッとした質感を対比させてあります。

 
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